私は基本的に自分の親の介護は、他人に任せるべきではないと考えております。
たとえ、病気のためにどんな状態になろうと、私という人間を育ててくれたのは、まぎれもなく自分の親なのだから自分で看るべきだと思っています。
これが親の恩に報いる事だと思うからです。
しかし、脳の萎縮が著しくなってしまった場合には、それなりの施設にお願いすべきだと思います。
どうもボケてくると、常に感情の起伏が激しくなり、自分にとって気に入らない事があると、それに反応して制御不能になるようです。
昨年の10月から私は、ボケてしまった父と暮らしているのですが、これはまさに荒行です。
荒行と言えば、僧侶の修行を連想されるかと思うのですが、ボケた人を介護する事から比べたら、僧侶の修行など屁の河童です。
なぜなら、僧侶の修行と言っても期間がありますから、その期間さえ修了すれば、
なんらかの資格が与えられるだけでなく、修行場から開放された後にはバラ色の人生が待っているからです。
しかし、この介護の荒行はどちらかが死ぬまで続くのですから、まさに本当の荒行です。
言葉で言ってみても、実際に体験してみないと、理解できないと思いますが、ボケた人との共同生活は想像を絶するものがあります。
「身内の恥をさらすものではない!」とお叱りをうけるかもしれませんが、
現在私と同じような荒行をされている方々のために、私はあえてエールを送るつもりで書かせていただきます。
お聞き苦しいところもあるかと思いますが、ご容赦ください。
よくテレビやラジオなどの人生相談で「ボケた親の介護のために、恋愛する時間など全くありませんでした。」
という女性の嘆きを耳にする事がありますが、これは本当の事だと思います。
それ程に、介護する者は介護のために自分の時間を費やされてしまうのです。
現状を知らない人は「ボケた人には、何か趣味を持たせればいい・・・」と簡単に言いますが、
ボケた人というのは、その何かに興味を持たせようとする脳細胞自体が壊れてしまっているわけですから、口で言うほど簡単にはいかないのです。
たとえば睡眠時間ひとつとっても、常に臨戦態勢で寝ているようなものですから、自分がいつ寝ているのかさえわからない状態に陥るのです。
なぜなら、父は夜中にトイレへ行った後に、自分がどこへ戻ればいいのか分からなくなるため、私(介護する者)が付き添わなければならないからです。
それが、日によっては2時間置き、あるいは3時間置きに起こされるわけです。
起床時間も父の体調次第で、午前3時であったり、5時であったりと日々変動するのです。
私は「これは私が臨機応変に対応できる人間になるための荒行なのだ」と思う事にしました。
ボケた人の特徴としては、何度も同じ質問を繰り返します。
その中でも一番困るのが、異性へのいやらしい妄想を抱き、実際にそれが起きているかのように信じ込み、
自分の思い通りにならないと、男のプライドが傷つけられたかのように、勝手に怒り出してしまう事です。
それだけで済めばいいのですが、酷い時にはお世話をしてくれている相談者の方にまで、まるで召使いか奴隷のように罵声を浴びせるのですから、
息子の私としては、ただただ申し訳ない気持ちで一杯になります。
恥ずかしい話ですが、私の父は若い頃から何かにつけ文句を付ける人でした。
たとえば、体が悪くて働けない人を見ると「あいつは、怠け者だ!」とばかりに人を見下すのです。
昔、父が「ああいう人間は最低だ!」と言った言葉が、今すべて自分自身に返って来ているのですから、まさに因果応報です。
子煩悩な所もあった反面、お酒を飲むと身体が弱い母に対しても怒鳴りつけ、
母が具合が悪くて寝ていても女中のように扱う人でしたから、ある意味【鬼畜】のような人でした。
ボケた今でもそういう所だけは、正常な時と全く変わっていないのですから、あれが本性なのでしょう。
たとえば、私が40度近い高熱を出しながらも、仕事をしていると、
私の背後から「いつまでも癖が悪いんだから・・・まったく!」と怒りだし罵声を浴びせる始末なのです。
父は、変な所がセコイ人間なので、電気代が勿体ないという事を言ったのだと思います。
ボケ症状というのは、人間を物凄く自分勝手にするようなので、自分の都合のいいようにしか解釈しないようです。
これはボケた人の特徴なので仕方がない事ですが、昨晩話した内容なども翌朝にはすっかり忘れてしまっているのですから、まるで宇宙人のようです。
そして夜になって晩酌をすると、今度は【たこ八郎】状態になるのです・・・。(笑)
普段の父は、かなり耳が遠いので、なかなか会話が成り立たないのですが、
なぜかお酒が入ると血の巡りが良くなるせいか、普通に聞こえているようなのですから不思議でなりません。
最近は、歩行訓練と称して父は相談所に歩いて通って来ているので脳細胞が活性化されたのか、
さすがに鏡の中に入ろうとするような事は無くなりました・・・と書くつもりでいたのですが、
残念ながら昨夜突然、徘徊の後に久々の徳三郎スペシャル【鏡入り】が出てしまいました。(苦笑)
また、幸か不幸か足が丈夫になって来た分、一人で出歩く事があり、警察の方にご迷惑をお掛けしてしまう事も出て参りました。
現在、父の右目は全く見えない状態なので、日常生活においては、かなり注意が必要なのです。
今思えば、昨年川に転倒した原因も、この辺りにあったのかもしれません・・・。
父は一時入院して検査した時に、アルコール依存症ではない事が分かりましたので、
今は相談者の方々を交え毎晩晩酌をしているのですが、それがとても楽しそうなのです。
昔から【笑う門には福来る】と言いますが、毎日父と暮らしていると、人間には本当に【笑い】が重要なのだと気づかされます。
どうか全国の【荒行(介護)中】の皆さん、逞しく笑って暮らしてください!
そうすれば、あなた自身もボケる事なく楽しく生きていけると思います。
この場を借りて、身内も出来ない事を、昼夜を問わず、無償で介護を手助けしてくれているスタッフ並びに相談者の方々に心から感謝いたします。
本当にありがとうございます。